2022年に静岡県牧之原市の認定こども園で起きた送迎バス置き去り死亡事故をきっかけに、送迎用バスの安全対策が大きく見直されました。
その一つが、送迎用バスへの安全装置の装備義務化です。
ただし、すべての子ども関連施設の送迎車が同じように義務化の対象になるわけではありません。保育所や幼稚園、認定こども園などは対象となる一方で、放課後児童クラブ、いわゆる学童保育は扱いが異なります。
この記事では、送迎用バスの安全装置義務化の内容、対象施設、学童との違い、保護者が確認しておきたいポイントをわかりやすく解説します。
送迎用バスの安全装置義務化とは?
送迎用バスの安全装置義務化とは、子どもが送迎用バスの車内に取り残される事故を防ぐため、対象となる施設に対して、子どもの所在確認と置き去り防止を支援する安全装置の装備を求める制度です。
きっかけの一つとなったのが、2022年に静岡県牧之原市の認定こども園で起きた送迎バス置き去り死亡事故です。この事故を受けて、国は「こどものバス送迎・安全徹底プラン」1を取りまとめ、送迎時の確認体制や安全装置の導入を進める方針を示しました。
プランでは、バスの乗車時・降車時に子どもの所在確認を確実に行うことや、対象となる施設の送迎用バスに安全装置の装備を義務付けることが盛り込まれています。
安全装置の装備を義務付ける関係府省令等の改正は、2023年4月1日に施行されました。こども家庭庁によると、2024年3月末までは1年間の経過措置期間2とされていましたが、可能な限り早期に安全装置を装備するよう求められていました。
送迎用バスの安全装置義務化の主な内容
乗降時に点呼などで子どもの所在を確認する
まず重要なのは、子どもがバスに乗るときと降りるときに、点呼などで所在を確認することです。
たとえば、送迎時には次のような確認が求められます。
- 乗車予定の子どもが実際に乗ったか
- 降車時に全員がバスから降りたか
- 欠席や遅刻の連絡と、バスの乗車状況が合っているか
- 施設に到着後、クラスや利用予定の確認と照合されているか
送迎バスの事故は、車内確認だけでなく、出欠確認や職員間の情報共有が不十分な場合にも起こり得ます。そのため、バスの中での確認と、施設内での出欠確認をつなげて行うことが大切です。
特に、欠席連絡がないのに子どもが登園・来所していない場合は、保護者へ確認するなど、早い段階で気づける仕組みが必要です。
送迎用バスに置き去り防止の安全装置を装備する
対象となる施設では、送迎用バスに置き去り防止を支援する安全装置を装備することが求められています。
安全装置とは、運転手や職員が車内確認を忘れた場合に、確認を促したり、異常を知らせたりするためのものです。
ただし、安全装置は職員の確認作業を代わりに行うものではありません。あくまで、ヒューマンエラーを補うための仕組みです。
そのため、施設側には「安全装置があるから大丈夫」と考えるのではなく、点呼、名簿確認、車内確認、安全装置の作動確認を組み合わせて運用することが求められます。
装置は定期的な点検も必要
安全装置は、取り付ければ終わりではありません。正しく作動する状態を保つために、定期的な点検や作動確認が必要3です。
たとえば、次のような点を確認しておくことが大切です。
- エンジン停止後に警報や案内が作動するか
- 確認ボタンが適切な位置に設置されているか
- 車外警報が鳴るか
- センサー式の場合、正常に検知できるか
- 職員が装置の使い方を理解しているか
- 故障時の対応手順が決まっているか
安全装置が設置されていても、故障していたり、職員が使い方を理解していなかったりすれば、事故防止の効果は十分に発揮されません。
そのため、施設では日常点検や定期的な作動確認を行い、必要に応じて記録を残しておくことが望まれます。
送迎用バスの安全装置義務化の対象施設
送迎用バスの安全装置義務化は、すべての子ども関連施設に一律で適用されるわけではありません。対象になるのは、保育所・幼稚園・認定こども園・特別支援学校幼稚部のほか、児童発達支援や放課後等デイサービスなど、対象施設・事業で送迎用バスを運行している場合です。
「バス」という言葉から大型バスだけを想像しがちですが、送迎に使う車両の形態によっては、ワゴン車なども確認が必要です。
保育所
保育所で送迎用バスを運行している場合は、安全装置義務化の対象になります。
一般的には「保育園」と呼ばれることも多いですが、制度上は「保育所」と表記されることがあります。保育所の送迎では、年齢の低い子どもが利用することが多いため、乗車時・降車時の確認を複数人で行う体制が重要です。
特に、欠席連絡がないまま登園していない場合には、バスの乗車記録やクラスの出欠確認と照合し、保護者へ確認する流れが求められます。
幼稚園
幼稚園の通園バスも、安全装置義務化の対象です。
保護者にとって「園バス」としてもっともイメージしやすいのが、幼稚園の通園バスかもしれません。幼稚園では、毎日同じルートで送迎するケースが多い一方で、欠席、遅刻、預かり保育の利用、バス利用の変更などによって、乗車予定が変わることもあります。
そのため、単に「いつもの子が乗っているはず」と考えるのではなく、名簿や連絡内容と照らし合わせて確認することが大切です。
認定こども園
認定こども園も、安全装置義務化の対象です。
認定こども園は、幼稚園と保育所の機能をあわせ持つ施設です。幼保連携型、幼稚園型、保育所型などの種類がありますが、送迎用バスを運行している場合は、保育所や幼稚園と同じように安全確認が必要になります。
2022年に静岡県牧之原市で起きた送迎バス置き去り死亡事故も、認定こども園で発生した事故でした。そのため、認定こども園における送迎時の安全管理は、制度見直しの中でも重要な位置づけにあります。
特別支援学校の幼稚部
特別支援学校のうち、幼稚部の送迎用バスも対象に含まれます。
特別支援学校には、幼稚部、小学部、中学部、高等部などがあります。このうち、安全装置義務化の対象として明確に整理されているのは幼稚部です。
ただし、小学部や中学部などであっても、送迎時の所在確認が不要になるわけではありません。安全装置義務化の対象かどうかとは別に、子どもの乗降確認や車内確認は、安全管理上重要な対策です。
児童発達支援
児童発達支援も、安全装置義務化の対象に含まれます。
児童発達支援とは、主に発達に支援が必要な未就学の子どもを対象に、日常生活や集団生活に必要な支援を行うサービスです。施設によっては、自宅や保育所などとの間で送迎を行う場合があります。
児童発達支援を利用する子どもには、年齢が低い子どもや、自分で状況を説明することが難しい子どももいます。そのため、送迎時には、乗車名簿、降車確認、施設到着後の所在確認を丁寧に行うことが重要です。
放課後等デイサービス
放課後等デイサービスも、安全装置義務化の対象です。
放課後等デイサービスは、就学している障害のある子どもなどが、学校の授業終了後や長期休暇中に利用する福祉サービスです。名前に「放課後」と入っているため、学童保育と混同されることがありますが、制度上は学童とは異なります。
学童保育にあたる放課後児童クラブは、安全装置義務化について別の扱いですが、放課後等デイサービスは障害児通所支援にあたるため、対象に含まれます。
障害児入所施設など
障害児入所施設など、障害のある子どもが利用する一部の施設も対象に含まれます。
ただし、実際に安全装置の装備が必要になるかどうかは、施設の種類だけでなく、送迎用バスを運行しているかどうかにも関係します。施設が送迎を行っていない場合や、対象となる車両に該当しない場合には、扱いが異なることがあります。
そのため、個別の施設について確認する場合は、施設の説明だけでなく、自治体の案内や施設の運用状況も確認する必要があります。
学童保育・放課後児童クラブは安全装置義務化の対象になる?
| 項目 | 学童保育・放課後児童クラブの扱い |
| 安全装置の装備義務 | 保育所・幼稚園などと同じ形では対象外 |
| 送迎時の所在確認 | 自動車を運行する場合、乗車時・降車時の確認が法令上必要 |
| 安全装置を設置している場合の点検 | 国の事務連絡で、正しく機能するよう点検整備が求められている |
放課後児童クラブは安全装置義務化の対象とは扱いが異なる
学童保育、つまり放課後児童クラブは、安全装置の装備義務は保育所・幼稚園等と同じ形では課されていません。4
国の「こどものバス送迎・安全徹底プラン」では、小・中学校や放課後児童クラブについて、安全装置の義務化は行わない一方で、財政支援を検討する方向が示されています。
つまり、放課後児童クラブは、園バスの安全装置義務化の中心的な対象である保育所・幼稚園・認定こども園などとは、制度上の扱いが異なります。
所在確認は法令上の義務
ここで注意したいのは、「義務化の対象ではない=安全対策をしなくてよい」という意味ではありません。
放課後児童クラブでも、子どもの移動のために自動車を運行する場合には、乗車時・降車時に点呼などの方法で子どもの所在を確認することが法令上求められています。5
学童保育では、学校からクラブへ移動する場合や、クラブから自宅・習い事先へ移動する場合など、子どもの動きが複雑になりやすい特徴があります。施設によっては、車で送迎を行っているケースもあります。
そのため、安全装置の装備義務の対象かどうかにかかわらず、送迎を行う場合には、誰が乗車したのか、誰が降車したのか、予定どおり到着しているかを確認する体制が重要です。
安全装置を付けている場合は点検が必要
放課後児童クラブの送迎車両に安全装置が設置されている場合は、装置が正常に作動するよう点検しておく必要があります。
文部科学省は、小中学校や放課後児童クラブなどで安全装置を装備している車両を保有している場合、警報が作動するか、確認ボタンが適切な位置にあるかなどを確認するよう示しています。
対象施設を表で整理
| 施設・サービス | 安全装置の装備義務 | 所在確認の義務 |
| 保育所・保育園 | 対象 | 必要 |
| 幼稚園 | 対象 | 必要 |
| 認定こども園 | 対象 | 必要 |
| 特別支援学校幼稚部 | 対象 | 必要 |
| 児童発達支援 | 対象 | 必要 |
| 放課後等デイサービス | 対象 | 必要 |
| 障害児入所施設など | 対象に含まれる場合あり | 送迎を行う場合は必要 |
| 小中学校 | 対象外 | 通学・校外学習等のために自動車を運行する場合、乗降時の所在確認が法令上必要 |
| 学童保育・放課後児童クラブ | 対象外 | 子どもの移動のために自動車を運行する場合、乗降時の所在確認が法令上必要 |
※実際の運用や補助制度は、自治体によって異なる場合があります。
※小中学校は、保育所・幼稚園などと同じ形で安全装置の装備義務が課されているわけではありません。ただし、通学や校外学習などのために自動車を運行する場合、乗車時・降車時に点呼などで児童生徒の所在を確認することは法令上求められています。6
安全装置にはどのような種類がある?
降車時確認式
降車時確認式は、運転者や職員に車内確認を促すタイプの安全装置です。
たとえば、エンジンを停止したあとに警報や音声案内が作動し、車内の後方などに設置された確認ボタンを押さないと警報が止まらない仕組みがあります。
この方式では、確認ボタンを押すために運転者や職員が車内を移動する必要があり、座席や足元に子どもが残っていないかを確認しやすくなります。
ただし、確認ボタンを押すこと自体が目的になってしまうと、十分な車内確認につながらないおそれがあります。そのため、ボタンを押す前に、座席の間や後部座席、足元まで目視で確認することが大切です。
自動検知式
自動検知式は、車内に人が残っていることをセンサーなどで検知するタイプの安全装置です。
子どもが車内に残っている可能性がある場合に、警報を鳴らしたり、外部に知らせたりする仕組みが想定されます。
自動検知式は、人による確認の見落としを補う役割があります。特に、子どもが座席の陰にいたり、眠っていたりする場合には、確認漏れに気づくきっかけになることがあります。
一方で、センサーの性能や車内環境によって、検知の精度に差が出る可能性もあります。荷物や座席の配置、車内温度、子どもの姿勢などによって、必ずしもすべての状況を完全に検知できるとは限りません。
そのため、自動検知式の装置がある場合でも、降車時の点呼や職員による車内確認を省略しないことが重要です。
併用式
併用式は、降車時確認式と自動検知式の両方の機能を備えたタイプです。
運転者や職員に車内確認を促す仕組みに加えて、車内に人が残っている可能性をセンサーで検知する機能を組み合わせることで、確認漏れを防ぎやすくします。
複数の仕組みを組み合わせることで、安全性を高める効果が期待できますが、併用式であっても、事故を完全に防げるわけではありません。
安全装置は、あくまで人による確認を支えるためのものです。
安全装置の種類にかかわらず、「装置があるから安心」と考えるのではなく、日々の確認手順とあわせて運用することが重要です。
保護者が確認しておきたいポイント
送迎用バスの安全対策では、安全装置の有無だけでなく、日々の確認体制が実際に機能しているかを見ることが大切です。
保護者は、施設を責めるためではなく、家庭側も連絡ルールを守るために、次のような点を確認しておくとよいでしょう。
- 乗車時に、子どもの名前や人数を確認しているか
- 降車時に、全員がバスから降りたことを確認しているか
- 降車後、最後に車内を見回る担当者が決まっているか
- 運転手だけでなく、同乗職員や担任も確認に関わっているか
- 欠席・遅刻・バス利用変更の連絡方法が決まっているか
- バスの乗車名簿と、施設内の出欠確認を照合しているか
- 子どもが予定どおり到着していない場合、保護者へ連絡する体制があるか
- 安全装置が設置されている場合、定期的に作動確認しているか
- 代替職員や臨時運行の日も、同じ確認手順で運用されているか
- 学童保育などで送迎がある場合、乗車・降車時の所在確認方法が決まっているか
特に、欠席や遅刻、バス利用の変更がある場合は、家庭からの連絡が安全確認につながります。
「欠席連絡は何時までに、どの方法で行えばよいですか」「バスを利用しない日は誰に連絡すればよいですか」など、具体的に確認しておくと、家庭と施設の間で情報の行き違いを防ぎやすくなります。
施設側に求められる安全対策
送迎用バスの安全対策では、安全装置を設置するだけでなく、毎日の確認手順を確実に運用することが重要です。
施設側では、次のような点を確認しておく必要があります。
- 送迎時の安全管理マニュアルを作成しているか
- 乗車時に、子どもの名前や人数を確認しているか
- 降車時に、全員がバスから降りたことを確認しているか
- 降車後、車内の座席・足元・後部座席まで確認しているか
- 運転手、同乗職員、担任などの役割分担が決まっているか
- 欠席・遅刻・バス利用変更の情報を職員間で共有しているか
- バスの乗車名簿と、施設内の出欠確認を照合しているか
- 所在が確認できない子どもがいる場合の対応手順が決まっているか
- 保護者へ連絡するタイミングや担当者が決まっているか
- 安全装置が正しく作動するか、定期的に点検しているか
- 安全装置の使い方を、運転手や職員が理解しているか
- 代替職員や臨時運行の日も、同じ確認手順で運用できるか
- ヒヤリハットがあった場合、職員間で共有しているか
- 点検や確認の記録を残しているか
特に重要なのは、確認作業を一人の注意力だけに頼らないことです。
運転手が確認し、同乗職員が確認し、施設到着後に担任や担当職員が出欠を確認するなど、複数の目で子どもの所在を確認する体制が求められます。
また、安全装置は人による確認を補うための仕組みです。安全装置がある場合でも、点呼、車内確認、出欠照合、保護者への連絡体制を組み合わせて運用することが大切です。
よくある質問
送迎用バスとは大型バスだけですか?
大型バスだけとは限りません。
制度上は、座席が複数列あるワゴン車なども対象になる場合があります。対象となる車両の範囲は、施設種別や自治体の案内も確認する必要があります。
学童の送迎車に安全装置がないのは違法ですか?
放課後児童クラブは、保育所や幼稚園などと同じ形で安全装置の装備義務化の対象には整理されていません。
ただし、子どもの移動のために自動車を運行する場合、乗車時・降車時の所在確認は法令上求められています。自治体独自の補助や施設独自の安全対策として、安全装置を装備しているケースもあります。
安全装置があれば置き去り事故は防げますか?
安全装置は事故防止に役立つ仕組みですが、完全に事故を防げるものではありません。
点呼、名簿確認、車内確認、出欠確認、保護者連絡などを組み合わせることが重要です。
保護者は施設にどこまで確認してよいですか?
送迎時の安全確認方法や欠席時の連絡ルールは、保護者が確認してよい内容です。
不安をぶつけるというより、「家庭側もルールを守りたいので確認したい」という形で聞くと、やり取りがしやすくなります。
まとめ|安全装置義務化は、送迎安全対策の一部
送迎用バスの安全装置義務化は、子どもの置き去り事故を防ぐために導入された重要な制度です。
放課後児童クラブ、いわゆる学童保育は、安全装置の装備義務については保育所・幼稚園などと同じ扱いではありません。ただし、自動車を運行する場合の乗降時の所在確認は法令上求められています。
安全装置は、職員の確認を不要にするものではなく、ヒューマンエラーを補うための仕組みです。施設側の確認体制と、保護者・家庭との情報共有を組み合わせることで、置き去り事故を防ぐ力が高まります。
注釈
- 文部科学省「こどものバス送迎・安全徹底プラン」PDF
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000138187.pdf ↩︎ - こども家庭庁「送迎用バスの安全対策」
https://www.cfa.go.jp/policies/child-safety/effort/anzen_kanri ↩︎ - 文部科学省「送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置の点検整備について」
https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/anzen/1416686_00035.htm ↩︎ - 文部科学省「こどものバス送迎・安全徹底プラン」PDF
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000138187.pdf ↩︎ - e-Gov「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」
https://laws.e-gov.go.jp/law/426M60000100063 ↩︎ - 文部科学省「学校保健安全法施行規則の一部を改正する省令の施行について」PDF
https://www.mext.go.jp/content/20230427-mxt_ope01-000004520_2.pdf ↩︎
